第1章 バニラ
テーブルに置いているタンブラーに手を伸ばした。
ぐびっとビールを飲むと、また画面に釘付けになる。
…いつから、あんな目ができるようになったんだろう…
俺の知ってる少年の頃のニノは、おどおどして。
自分に自信がないから、いつも泣きそうな顔してた。
「今じゃこんなふてぶてしくなって…」
くくっと笑いがこみ上げてくる。
俺よりも何倍も頭がいいから、俺よりもずっと前を歩いてる。
「もう…追いつけないな…」
廊下を歩く渡海の背中は、とても広い。
もう俺の手の届かないとこまで、ニノは駆け上ってしまった。
ソファで横になりながら、遠い昔に思いを馳せた。
なんか今日は感傷的だな。
そんなことを思ってたら、だんだんと目が閉じてきて。
遠くで、電話の着信音が聞こえた。
誰だろ…
でも、眠い…眠いなあ…
スマホの鳴る音で目が覚めた。
いつの間にか、ニノのドラマを見ながら寝てしまったようだ。
目をこすりながら体を起こして、テーブルに置いてあるスマホを手に取った。
画面を見ると、そこには…
「ニノ…」
珍しい、電話を掛けてくるなんて。
一体何の用だろう。
仕事の話だろうけど…
時計は23時を指してた。
日曜のこんな時間…?
まさか飲みに誘われることはないだろうけど…
明日俺が休みだということを知っていたら、その可能性はある。
「…めんどくさい…」
とりあえず、着信が止むまで待ってみることにした。