第7章 ショコラ scene5
ぐるぐると、現実と映像が入り交じる。
「もうちょっとです…!櫻井さんっ…」
幸雄さんが必死に声を掛け続けてくれてる。
でももう頷くこともできないくらい、目の前が混沌としてる。
初めて笑った顔
伝い歩きをした後ろ姿
かあさまと初めて呼んでくれた声
熱を出して真っ赤な顔をして寝込んでいる顔
そして、白い布を顔に被る姿
叫びそうになった。
”ちか、行かないで”
頭の中で、誰かの声が叫んでる。
それにシンクロして叫びそうになるのを、必死で堪えた。
「あーっ…」
雅紀の叫び声が聞こえた瞬間、身体に凄い衝撃が来て、目の前が真っ暗になった。
遠くで、鞠をつく音が聞こえる
ちか
ちか、どこ?
中折れ帽を被った男性がこちらを見ていた
ここは…神社の境内…?
「やあ…櫻井さん…やっぱり蓋が開いておいでだ」
櫻井…
誰のこと…?
それより、ちかは…
「大丈夫ですよ…ちゃんと、そちらに戻しますから…」
眼鏡の弦をくいと引き上げると、男性は微笑んだ
「さあ…相葉さんが心配していますから…」
男性の手が、私の目を覆った
「戻りましょう。あなたの住む場所へ」