第7章 ショコラ scene5
「かあさま…」
心細そうな声が聞こえて、ぎゅっと腕に力を入れた。
「ここにいるからね、ちかちゃん…」
幸雄さんは黙って雅紀の額に銀器をつけた。
「……さあ、力を抜いて…ちかちゃん、この猫を見て…」
動かなくなった子猫は、雅紀の手の中でぐったりしている。
「集中して…さ、ここに移ろうね?」
「ゆきお兄さま…」
「大丈夫だよ…一時的に移るだけだから。僕が力を貸すから、相葉さんの身体から、出ていこうね…」
「はい…わかりました…」
ぶつぶつと、幸雄さんがなにか呪文みたいなのを唱えだした。
「かあさま…」
「…ちかちゃん…」
「かあさま…かあさま…」
甘えるように俺の胸に顔をこすり付けてきた。
「…ありがとう…かあさま…」
生んでくれて…ありがとう…
見せたかった
かあさまに
ちかのお嫁さまの姿…
「あ…ああっ…」
頭の中に映像が流れ込んできた。
「櫻井さんっ…ちょっと、我慢してくださいっ…」
幸雄さんの声で、なんとか目の前の雅紀の身体から手を離さずにいられる。
「もう少し…もう少しだから…声を出さないで!」
チラチラと頭をよぎるのは、ちかちゃんが生まれて育っていく姿。
小さな手…
小さな足…
これは、ちかちゃんのお母さんの記憶だ…