第7章 ショコラ scene5
慌ててリビングに飛び込むと、幸雄さんが猫を追いかけ回していた。
「あ…ああっ…そっち!」
「えっ…なっ…」
「うわあっ…」
足元を黒い物体が走っていくから、思わず立ち止まってよろけたら、後ろにいたチーフがひっくり返った。
「ふあっ…」
チーフが俺の肩を掴むから、一緒に倒れた。
「ぐあああっ…」
「ひ、引っ張るなよっ…」
「す、すまん…」
チーフの上に乗っかっていたから、慌てて降りておいた。
「大体、あんだよ!アレ!」
「い、いや…わからんのだ。地下の駐車場に行ったら、いきなり顔に飛びついてきて…」
「はあ…?」
「何しても剥がれなくて…俺にもわけがわからん」
よく見たら、チーフの顔にはひっかき傷がついていた。
あとで消毒してやらにゃ…
「とにかく、捕まえないと…」
捕まえなきゃ、作業が進まない。
立ち上がったとこで、急にリビングの中が静かになった。
「あれ…」
雅紀の膝の上に猫が乗ってる。
「ネコチャン…」
雅紀は微笑んで、猫を優しく撫で始めた。
俺もチーフも、幸雄さんも、呆然とその光景を眺めていた。
「かわいい…」
あれだけ走り回っていた子猫は、雅紀の膝の上で大人しくなっている。