第7章 ショコラ scene5
形代を着ているから、普段の幸雄さんができないこともできるそうだ。
それに、行長先生の声は聞こえてるみたいだし。
「なにか代わりになるものを、買ってきましょうか?」
後ろで話を聞いていたチーフが、身を乗り出した。
「私がどこかで見繕ってきます」
「いやあ…でも…」
「日本人形がいいか…なにがいいか…」
「…それなら、博品館に行けば人形はたくさんあるんじゃない?」
俺がそう言うと、チーフは嬉しそうな顔をした。
「じゃ!行ってくるから!櫻井、頼むぞっ!ついでに昼飯も豪勢なの買ってくるから!」
多分なんにもできなくて、歯がゆかったんだろう。
チーフは飛び出していった。
「…まあ、ちかちゃんが気に入るものがあればいいんですが…」
「そうですねえ…」
女の子の好みなんか、ちっともわからねえ…
しかも、時代が違うし…
ちらっと、幸雄さんの持ってきた日本人形を見た。
誰かいるって、さっき…
にたりと、笑った気がした。
そっと幸雄さんの持ってきたカバンにしまっておいた。
「…あ…電話ですね…」
幸雄さんがスマホを取り出した。
着信は行長先生からだった。
幸雄さんは立ち上がると、窓辺に立って通話を始めた。