第1章 バニラ
どうして…
好きって言えるんだろ
俺が智に掛けた魔法はとっくに消えてるのに
「ねえ、智…」
「ん~…?」
「今日、俺の誕生日」
「わかってるよ?」
キッチンで、俺のために夜食を作ってくれちゃってる。
「ねえ、プレゼントは~?」
「待ってろや!もう!」
ドラマの撮影ももう終盤で、追い込み。
だから日曜日の今日も撮影で深夜までかかった。
終わったその足で、智の家に来た。
「ほれ、食え」
持ってきてくれたのは、ミルク粥。
「…子供か…」
「あ?あにいってんだ?」
「いっただきまーす」
熱々のを持ってこられたから、フーフーしながら食ってたら、ダイニングテーブルの向かいに腰掛けた。
テーブルに肘をついて、俺のことニコニコして見てる。
「見んなよ…」
「なんで?」
「食いにくいだろ」
「そりゃそうか」
そう言ってちょっとだけ目を逸らしてくれる。
不器用だし、ぶっきらぼうだし…
なのに、こういうとこすごく優しい。
大野さん流の…俺達にしか見せない優しさ。
とても、好きだと思う
昔からずっと…
一回だけ…って思ったんだ。
一晩だけでも、智と恋人みたいになりたいって。
だから俺、ずっと勉強して。
こっそり先生のとこ通って…やっと、あの日。
もう独り立ちしても大丈夫って、言ってもらえたんだ。