第6章 ビリジアン withあにゃ
side A
出ない…
何度鳴らしても、応答する気配はなくて。
仕方なく、電話を切った。
繋がらなかった携帯を、ぼんやりと見つめた。
魘されてた…
何度やっても覚えらんない振り付けがあって、1人残って自主練してた。
ようやくなんとか入って、控室へ戻ってきたら、智がソファで寝てて。
周りを確認すると、3人の荷物はもうなくなってて。
控室に来る前に、マネ達がなにやら真剣な顔で話をしてるのは見かけてて。
俺はそっと、足を踏み出した。
「…おーちゃん…こんなことで寝てたら、風邪ひくよ…?」
ソファの一歩手前で立ち止まり、小さな声で呼びかけた。
智は、なにも知らない赤ちゃんみたいな無垢な顔で眠り続けてる。
「…おーちゃん…?」
もう一度、呼んでみた。
目を覚まさない。
「…智…」
もう一度。
でもやっぱり目を覚まさなくて。
今なら
触れてもいいかな…?
そっと、手を伸ばした。
視界に映る自分の手は、ありえないほど震えてた。
少しずつ少しずつ、距離を縮めて。
もう、あと数センチで触れそうになった、その瞬間。
「…ごめ…」
誰かに向けた謝罪の言葉とともに。
真珠のような涙が、一粒、目尻から零れた。