第5章 濡羽色(ぬればいろ)
ほんと…なんなんだかな…
ひとりでエプロンを摘んでもぞもぞしてるから、大野さんに向かって手を差し出した。
大野さんはそれを見て、そっと手を握ってきた。
そのままふたりで手を繋いで、コーヒーが入るのを待った。
「あー…明日、誕生日だね」
「うん…」
今日は日曜日で、俺もオフだからこんなのんびりしてる。
明日は仕事だけど、大野さんは休みなんだって。
俺だったらこんなクソ忙しい時期に連休なんて、なにやっていいやらわかんない。
「明日、どうすんの?」
「え…別に用事ない…」
こんな時期に釣りなんか行ったら叱られるし。
最近、絵ばっかり描いてるから、アトリエでも行くのかな?
「じゃー…夜、一緒に飯でも食う?」
「え…?」
明日は、夕方までの予定だし。
そんな押すような収録でもないから…
コーヒーが入ったから、マグカップを出してもらって、二人分のコーヒーを注いだ。
それぞれカップを持ってリビングに行くと、ソファにどっかり座った。
「何食いたいか、考えといてよ。俺、奢るよ」
「ええっ…」
「なによ」
「ニノが…奢るなんて…!」
この世が終わるみたいな顔で驚いてるから、腿を殴っといた。