第5章 濡羽色(ぬればいろ)
結局、朝は食えないって言ってるのに、豪華な朝ごはんが並んで…
大野さんが釣ってきた魚も並んだけど、俺が生物だめだから煮付けとかさ、焼いてくれちゃってさ。
お腹いっぱいになっちゃって。
せめて茶碗洗うよって言ってるのに、自動食洗機があるから後片付けまでさせて貰えなくて。
なんか、どうしていいんだかわからなくなった。
昼も夜も食ってけっていうけど、こんなんどうしたらいいんだよ。
手持ちのゲームやってたけど、なんかもう居たたまれなくなって。
キッチンの入り口に立って、家事をする大野さんを眺めてた。
「どうしたの?」
「いや…別に…」
「コーヒーでも飲む?」
「あっ…俺に、やらせて?」
「え、いいよ。俺がやるよ」
「いや、せめてこのくらいさせてよ…」
別にふたりとも翔ちゃんにみたいに不器用なわけじゃないし、こんなことくらいできるし…
大野さんにコーヒーのありかを聞いて、コーヒーメーカーに粉をセットした。
パタンと自動食洗機を閉じる音が聞こえて、大野さんがこちらに身体を向けた。
「コーヒー…いい匂い」
「ん。そうだね…」
なんなんだ、この会話…
ちらりと後ろに立ってる大野さんを見ると、やっぱりこっちもどうしていいんだかって顔してる。