第5章 濡羽色(ぬればいろ)
急いで上下着たら、またエプロンを着けた。
「待っててね。すぐできるから」
「うん…」
やっぱ…新妻か。
ぶんぶんと頭を振りながら、洗面所に行って顔を洗った。
歯を磨きたいけど、歯ブラシ…
キッチンまで戻って、歯ブラシがないか聞いてみたら、あるという。
「どこにあんの?」
「あ、今行く」
パタパタとスリッパの音をさせながら洗面所に走っていった。
一緒についていって洗面所を覗き込んだら、洗面台の下から新しいのを出してくれた。
「はいこれ」
「ん。ありがと」
歯ブラシを受け取って、思わず見つめ合ってしまった。
…なんだこれ…これじゃまるで…
そう思ってたら、大野さんの顔が真っ赤になってた。
「あっ…スリッパ!」
「へ?」
「ごめん。スリッパ出してなかったね!」
ものすごい勢いで立ち上がると、洗面所を出ていってすぐ戻ってきた。
「はい」
「あ、別にいいのに…」
足元に差し出されたスリッパは、真新しいもので。
「ありがとう…」
素直に履いたら、大野さんが嬉しそうに笑った。
「じゃ、戻るね」
「うん」
またスリッパの音を立てて戻っていった。
「…新婚か…」