第5章 濡羽色(ぬればいろ)
何年も見慣れたはずの、寝顔…
大野さん、よく楽屋で寝ちゃうから…
なのに、見れない。
またもぞっと動いたから、意を決して顔を覗き込んでみた。
「ぶ…」
いつものように…
子供みたいに、無邪気な顔してる。
ポンポンと頭を撫でてみた。
「んふ…」
気持ちいいのか、嬉しそうな顔しちゃって…
なんか、わかんないけど。
俺も、嬉しくなった。
昨日から感じてる、胸の奥に湧き出してくる温かいもの…
温かくて、ふわふわして…
嬉しいなって感じたら、もっといっぱい増える。
これ、なんだろ?
日焼けで荒れてるほっぺたを、ふにっと摘んでみた。
「んえ…?」
大野さんが目を開いて、俺を見つめた。
「ニノ…」
「おはよ」
少しだけ俺のことを見て、それから固まった。
「あ…」
おお…昨日のこと、思い出してる。
見る間に顔が真っ赤に染まった。
「お…俺…その…」
「ん。どうですか?気分は」
「え…その…」
もぞもぞと居心地悪そうに腕の中で動いてる。
「いい…です…」
「よかった」
ちょんと、足先が当たった。
ささっとその足先が引っ込んでいった。
「その…ごめん…」
「え?」
「ごめん…なさい…」