第5章 濡羽色(ぬればいろ)
「俺だから嫌じゃないんでしょ?おかしくなったわけじゃ……」
そこで、はたと気づいた。
やられたって言うから、てっきり男にかと思ってたけど、女にもやりようはある。
もしも、方向違いな慰め方をしてしまったら、ますます立ち直れなくなるんじゃないか…?
自分で自分を追い詰めて…
「大野さん、嫌だったら答えなくていい」
「え?何…」
「無理やりされたのって、女…?」
「えっ…」
大野さんが起き上がって、逃げていきそうになった。
「待って!待って、大野さん…」
後ろから抱きしめて、落ち着かせるように宥めた。
「ごめん…嫌なこと聞いてごめん…」
「ううん…ううん…」
荒い息を吐き出しながら、なんとか大野さんは首を横に振った。
「そうだよ…俺のことやったの…女だよ…」
殴られて、囲まれたのは男だったけど。
手も足も押さえつけられて、面白がって公開セックスさせられたって…
抱きしめてる腕に力が入った。
「酷い…」
身体が勝手に震えた。
「ニノ…?」
怒りで、震えてるんだ…
「ごめんね…こんなこと聞いて…」
「ううん…ううん…」
大野さんが身体をこちらに向けた。
「ニノ…大丈夫だから…」
泣きそうになってる頬を両手で包んだ。
こんなことで…
こんなことで、大野さんの気持ちが穏やかになるとは思わないけど…
また額にキスをした。
「ニノ…」
癒せるなら…
今度は、頬にキスをした。
俺が思っていた以上の…でっかい傷を抱えてるあなたを…
癒やしたいと思ったんだ…