第5章 濡羽色(ぬればいろ)
もっと近づきたくなって…
背中に回した腕に力を入れた。
なんの抵抗もなく、大野さんは俺の身体に密着した。
「俺…」
ぼそっと大野さんが呟いた。
「怖かった…けど、自分がやったことの結果だから、自分で立ち直るしかないと思ってた…」
「うん…」
「でも…無理だった…どうしても…」
「…しょうがないよ…」
心の深いところにつけられた傷は、ひとりだけじゃ癒せない。
ましてや、見知らぬ人につけられた傷は…ごく近くにいる、自分のことを本当に想ってくれてる人の力を借りないと、癒せない…と俺は思ってる。
「でも…ニノがずっと……」
「ん…?」
「ずっとそばに居てくれたから…俺…」
「うん…?」
「だいぶ、良くなったと思ってたんだ…」
「ほんと…?」
もぞっと腕の中で大野さんが頷いた。
「でも、やっぱりまだ…だめなんだな…」
大野さんの体温で、胸が温かい。
「焦ること…ないよ…」
「うん…」
これからもできるだけ…傍に居よう。
俺が居ることで、この人の助けになるのなら…
そう思って、抱きしめる腕と握ってる手に力を入れた。
「ニノ…」
大野さんが顔を上げた。
「ありがとう…」