第5章 濡羽色(ぬればいろ)
しばらく、眠れないでずっと真っ暗な天井を見てた。
さっき大野さんに言われたことが、ぐるぐる頭の中で回ってて…とてもじゃないけど、眠れそうになかった。
「…ニノ…?」
「ん…?」
やっぱり大野さんも眠れないのか…
「どうしたの?」
手をつないだまま、大野さんが身体をこちらに向けた。
「…ん…?どした…?」
「ううん…」
おずおずと身体を俺にくっつけてきて…
平気…なのかな…
俺も身体を大野さんに向けて、背中にそおっと腕を回した。
「…大丈夫…?」
「うん…」
もぞもぞと動いて、俺の胸板に額をくっつけてきた。
なんか…
かわいい…って思った
「うそ…」
「え?」
「あ、ううん。なんでもない…」
こんな三十路のアラフォーおじさんなのに、かわいいと思ってしまった自分に”うそ”だよ…
こんな寝癖いっぱいつけて…
顔だってまだらに日焼けしてるおじさんなのに。
ぼっさぼさの髪に鼻を埋めた。
この人独特の、甘い匂いがした。
なんの匂いだろ…
シャンプーでもない。
ボディーソープでもない。
柔軟剤の匂いでもない。
甘い匂い。
嗅いでるうちに、だんだん胸の奥があったかくなってきた。