第5章 濡羽色(ぬればいろ)
冷蔵庫から冷たい水のボトルを取り出して、引き返した。
マットの上で座り込んでる大野さんは、座らせたままの姿勢でそこに居た。
「はい、お水。飲んで?」
お水のボトルを渡すと、棚においてあったバスタオルを取った。
髪や身体を拭いてるけど、お水を飲まないからボトルを取り上げた。
蓋を開けて、無理やり飲み口を唇につけた。
「飲んで!お願いだから!」
「やっ…」
ボトルを持ってる手を振り払われた。
ばしゃっと音を立てて、ボトルは床に落ちた。
「え…?どうしたの…?」
大きく目を見開いて、大野さんは俺を見上げた。
濡れ髪から、ぽたりと水の雫が落ちた。
「たすけ…て…」
「大野さん…?」
「助けてっ…ニノっ…」
ガタガタ震えだして…
「大野さん…」
思わず差し出した腕に、縋り付いてきた。
何も考えられず、そのまま大野さんを抱きしめた。
「大丈夫…大丈夫だから…」
「ニノぉ…」
泣き出した大野さんの身体を、ぎゅっと抱きしめた。
「なにが…あったの…」
こんなになるほど…
なにがあったの…
「大野さん…」
大野さんが落ち着くまで、ずっと抱きしめた。
震えが収まって、なんとか泣き止む頃には身体が冷え切ってて。
バスローブで身体を包んで、抱き上げた。