第5章 濡羽色(ぬればいろ)
「大野さん…」
おかゆを食べる手が止まってた。
テーブルの一点を見つめて、なにか考えてる顔をしてる。
何を、思い出してるの…?
「また…お家来てもいい?」
「…もうくんな」
「なあんでえ!?」
「もお…だって、別にいいだろ…どうせまた火曜日会えるんだし」
「いーもん…お家覚えたし、来るもん」
「おまえ…」
嫌そうな顔をしたけど、知らない。
だって…これはすごく大事なこと。
譲っちゃいけない。
空気を読んじゃいけない。
なぜだかわからないけど、そう思った。
ぎゅっと大野さんの肩を掴んだ。
「なんだよ…」
「なんでもない…」
引き寄せたら、抵抗もなく俺の胸に倒れ込んできた。
ぎゅっと抱きしめてみたら、胸の奥があったかくなった。
「ん…?」
「…なんだよ?」
「わかんない」
「はあ?」
なんだか照れくさくなって、大野さんの手からスプーンを取り上げた。
「なにすんだよ」
無言で大野さんのおかゆをスプーンですくった。
「はい、あーん」
「…ばかか?おまえ…」
「あーん」
ぶすっとしたまま口を開けてくれた。
俺の胸に凭れたまま、大野さんはおかゆを食べてくれた。