第5章 濡羽色(ぬればいろ)
宅配のおかゆが届いて、ふたりでそれをテーブルに並べて。
「温め直す?」
「いや…別にこのまんまでいい」
まだほんのりと温かかったから、そのまま薬味を乗せて頂いた。
「あ、結構美味しい」
「ん…」
リビングには80インチのでっかいテレビがあるけど、つけてないし静かだ。
音楽も掛けてないし、俺たちがおかゆをもそもそ食べる音だけがしてる。
「…なんかこういうの久しぶりだね」
「ん?そうか…?」
「だって、ひとりで大野さんち遊びにくることなんて、今までなかったもん」
「まあ…そうだな…」
だって招待してくれないし…二人でご飯も食べに行ってくれなかったりさ。
「大野さん、遊んでくんないんだもん」
「別に…遊ばないってわけじゃ…」
おまえ、いつも女いるじゃんとかブツブツ言ってる。
「ご招待してくれたら、いつでも喜んで来るのに」
「ああ…?だって、なんかいまさらじゃね?」
「そんなことないよ!」
「だって…仕事で毎週会うし…」
そう…20年、それが当然で…
一緒に居て当たり前で、毎週顔を合わせて当たり前で。
喧嘩したって、怒らせたって…
そこに、大野さんがいるのが当然だった。