第5章 濡羽色(ぬればいろ)
相葉さんがタクシーの運ちゃんに向かって、手を上げて頭を下げた。
タクシーは俺たちの横を通り過ぎていった。
俺に向き直ると、ふうっと一個息を吐いた。
「戻る?」
「うん…」
あんなに頑固に言わないって顔してたのに、あっさりゲロったのも、なんだかおかしい。
用意されていたセリフを、言ったんじゃないか。
それにあの、顔…
あんな表情で笑うこと、今までなかった。
まるで今から、死んでしまう人みたいな…
透明な笑み…
なんだか、怖い。
大野さんが居なくなってしまいそうで…怖い。
大野さんのマンションのエントランスの入り口まで戻ると、翔ちゃんと潤くんと鉢合わせた。
「え…?どうしたの?」
「そっちこそ…」
ふたりも、戻ってきたみたいだった。
「…やっぱ、心配になって…ね?」
「ああ…そっちも?」
「うん…」
「そっか…」
エントランスには、ソファセットが置いてあって。
俺たちはちょっとだけそこで話をすることにした。
「…やっぱり、ニノもそう思う?」
まだ、大野さんには話せてないことがあるんじゃないかって言ったら、翔ちゃんも潤くんもそう思ってたみたいで。
「俺たちも、そう思ったんだ…」