第5章 濡羽色(ぬればいろ)
いつもは、地方で外に飲みに行ったりするときは、現地のプロモーターさんとか、テレビ局や映画会社の人とか、お接待の人たちが大名行列みたいについてくる。
そういう人たちと仲良くなるのも、ある種仕事で。
そうやって顔馴染みになって仕事って増えていくものだから。
だから、飲みの席が嫌いな俺だって、そういうのにはちゃんと出るんだ。
だけど、大野さんはそういうの駄目で。
決定的に向いてない。
みんなもうわかってるから、そういう部分で大野さんに期待することはない。
だから俺たちが一緒のときはフォローはするんだけど…
個人の仕事までは手が回らない。
事務所の連中も、そこはわかってて。
一応の段取りは踏むようにはして(ごくごく偉い人たちとの会食やなんやだけはする)、あとは大野さんの自由にさせてるみたい。
大阪なんて、それこそ若い頃から仕事で何回も来てる地だし、顔なじみも居るし行きつけの店もある。
だから、マネも一人にしたんだろうと思う。
ふらりと出かけた大野さんは、そこで喧嘩に巻き込まれたんだって。
「凄い…俺たちのこと、敵視してるようなやつらで…」
店主も周りに居た人たちも止めてくれたけど、結局殴られて。