第5章 濡羽色(ぬればいろ)
「顔だけは庇ったんだけど、結局ぼっこぼこにされて…」
警察を呼ばれそうになって、まずいと思ってその場は逃げた。
逃げたんだけど、難癖つけてきた連中は追いかけてきて…
「泊まってるホテルもわからなくなるし、追い詰められて知らないところに出ちゃうし…」
そのまま捕まって、気がついたら病院に居たらしい。
「…もう、わけわかんなくて…」
最初は、酷い目に遭ったって。
それだけだったのに…
日を追うごとになんだかおかしくなっていった。
「嵐のみんなは平気なのに…知らない人とか、ふたりきりになるともうだめだった…」
だから、俺たちにはわからなかったんだ…
俺たちの前では、いつもの大野さんだったんだから。
「ごめん…俺の不注意で…まさかこんなことになるとは思わなくて…」
頭を下げた大野さんの背中は小さかった。
「…だから…もっと自覚持たないとだめだって…ずっと言ってたよね?」
「うん…」
「医者は?」
潤くんが大野さんのペットボトルを取り上げて、ごくごく飲みだした。
「…行ってない…」
「カウンセリングとか…そういうの通ってないの?」
「うん…」
ほっとけば治るって思ってたんだって…