第5章 濡羽色(ぬればいろ)
なんでこんなことになってるのか聞きたいみたいだけど、知らない。
みんななんでもない顔してるけど、寝不足で。
年末でスケジュールも詰まってて、疲れてる。
だけど、大野さんが心配でここに残ってる。
だから、帰って欲しそうにしてるけど知らない。
「…あの…」
「ん?」
「えっと…」
水を飲み終わって、ペットボトルをテーブルの上に置いて、改めて俺たちを見た。
「…帰らなくていいの…?」
「いーの」
「いいんです」
「いいんだよ?」
「いいに決まってる」
「あ…そう…」
もじもじしながら、またペットボトルを手に取った。
「あの…」
「ん?」
「あの…さ、あの…」
飲んでも居ないのに、またペットボトルを戻した。
「俺、大丈夫だから…」
「へえ…」
「あっそ」
「それで?」
「ふうん」
「……」
返事は素っ気ないけど、誰一人大野さんから目をそらしていない。
「ほんとだよ…?」
「へえ…」
「そうなんだ」
「大丈夫…ねえ」
「で?」
「……」
観念したらいいのに。
俺たち、大野さんから話を聞くまで、帰らないつもりだし。
多分、わかってるはずなのにさ。
そうやって、誤魔化そうとするんだから。
昔からの悪い癖だよ。