第5章 濡羽色(ぬればいろ)
「だから…それ以上は追求してないんだって…」
潤くんがテーブルの上のビールの缶に手を伸ばした。
乱暴に掴むと、プルタブを上げてぐびりと一口飲んだ。
「様子を見て、と思ってたみたいだけど…」
どうしても、なにがあったのか聞くことはできなかったと…
「智くんの仕事がこれだけ少ないのも、意図的に調整してたみたいだ…」
「嘘…」
「人に、触られるのが…だめなんだって」
「あっ…だからさっき…」
「ああ…」
あんな風になってしまうから、問い詰めることも仕事を入れることもできなかったそうだ。
「嘘でしょ…わかんなかった…」
相葉さんが両手で顔を覆った。
「…誰も…気づいてないよ…俺たちですらわからなかったこと、他の奴らになんかわかるかよ…」
吐き捨てるようにいうと、潤くんはビールを飲み干した。
「そう…だよね…」
今まで、俺たちにはなんにもわからなかった。
必死に、隠してたってこと…?
俺たちにわからないように。悟られないように。
どうして…?
「どうしよう…どうしたらいいんだろ…」
「わかんねえ…」
誰も、どうしたらいいかなんて…
わからなかった