第5章 濡羽色(ぬればいろ)
「なんか…って…」
「言わないんだって…智くん。帯同してたマネにもわからないんだって」
「そんな…だって張り付いてたんでしょ?」
「うん…でも、わからないんだって…」
ビールの缶をテーブルに置くと、ため息を付いた。
「…智くん、地方で、病院に担ぎ込まれて…」
「えっ…なにそれ。聞いてない」
「だから…口止めされてたんだよ…」
「なんで…そんな大事なこと…」
「…暴力を、受けたらしい」
「…え…?」
部屋がしんとした。
「ちょ…え…?どういう…こと…」
「病院に一緒に行ったマネの話だと、最初はひどいショック状態で…服も、破れてて…」
深夜のことだったらしい。
ふらりと大野さんは、一人で飲みに出かけてしまった。
いつものことだから、マネはついていかなかったって…
深夜に連絡の来たマネは、慌ててホテルを飛び出して病院に向かった。
ついたとき、大野さんは口が聞けないほどだったという。
あとから、喧嘩に巻き込まれたと、大野さんは言ったらしい。
でも、顔を殴られたあとはないし、いろいろと不自然なことがあって…
東京に戻ってきてから、チーフが大野さんを問い詰めたんだけど、どうしても口を割らない。
それどころか、その話をしたあと、大野さんは吐いたそうだ。
そんな様子を見ていて、どうもただの喧嘩じゃないって…
チーフは思ってる。