第5章 濡羽色(ぬればいろ)
倒れた大野さんを寝室に寝かせると、俺たちはリビングに戻った。
なんだか疲れ切ってて、誰も口を聞かなかった。
「病院…連れて行くべきかな…」
相葉さんが言うと、翔ちゃんが首を横に振った。
「…いや…それは智くんが起きてから…」
「でも、なんか病気だったら?」
「そうじゃ…ないと思う…」
「え?」
「多分、精神的なものじゃないかと思う」
そう言い切ると、テーブルに出ていたビールの缶を取って、プルタブを引き上げた。
「…翔ちゃん…どういうこと…?」
ぐびりと一口飲んで、翔ちゃんは顔を上げた。
「なんか…わかったの…?」
「ああ…」
どこか痛んでるみたいな顔をして、座り直した。
「さっき…チーフに連絡してみたんだけど…」
ちらりと潤くんの顔を見ると、気まずい顔をした。
「…言ったほうがいいよ…」
潤くんが言うと、翔ちゃんはぎゅっと口元を袖で拭いた。
「智くん…なんか、あったみたいなんだ…」
それは去年の夏…
主演映画のプロモーションで、大野さん個人の活動が増えてた頃。
地方にも行くことがあって、その間に何かが起こったようだとチーフが言っていたそうだ。