第5章 濡羽色(ぬればいろ)
俺たちの送迎車のうちの1台が店の近くに来てくれて。
すぐに俺たちは店を出た。
「ごめん、タクシー代わりに使って」
翔ちゃんがさすがのフォローを入れながら、一番年が若いマネに謝ってる。
「いえ…でも櫻井さん…」
「このこと、黙ってろよ?」
「…わかりました…」
連絡する人選も確かだわ。
これならチーフにチクる心配もないだろう。
一応黙認はされてるけど、本当は事務所の車をプライベートでは使っちゃいけない。
こいつは若いだけに、俺たちの言うこと聞いてくれるし。
あとからバレても、店で混乱が起こりそうだったって言えば済む話だし。
「大野さんの家、行って」
「了解しました」
車内はずっと無言だった。
俺の隣に座る大野さんは、いつもどおり窓の外を眺めて。
眠るでもなく、そのまま視線を動かすことはなかった。
みんなそれぞれ、多分さっきあったことを思い出してる。
こんな大野さんの姿を見るのは、初めてだ。
一体、なにがあった?
みんな、そう思ってる。
そして、あんな大野さんを放っておける訳がない。
大野さんのマンションに着くと、そのままみんなで乗り込むような形でお邪魔した。