第5章 濡羽色(ぬればいろ)
なんか…おかしい…
この違和感が何なのか。
ずっと変だって思ってるんだけど、なにがおかしいのかわからない。
こんなこと、今までなかったのに…
「ねえ…大野さん」
「……」
返事をしないのも、いつものことだけど…
この時は、頑なに俺のいうこと聞かないようにしてるように感じた。
思わず、その背中に手を載せた。
「なんかあったら…絶対に言ってよね…」
「…別に、なんもねえもん…」
「ホント…?」
「…ああ…」
でも、その頑なな背中は、絶対に俺を見ようとはしなかった。
「…絶対だよ…?言ってね?」
そんなことくらいしか、俺は言えなくて。
この人が、一旦言わないって決めたら、死んでも口を割らないことは知ってる。
言いたくないと思ったら、親でも言わせることはできないだろう。
そんな頑固さを知っている俺は、これ以上踏み込むことができなかった。
「…ああ…」
その返事が嘘だってことは、わかった。
11月3日
土曜であり、文化の日。
そして、俺たちのCDデビュー日だ。
それぞれが年末の忙しいスケジュールの中、この日は空いていたから、翔ちゃんの提案で集まることになった。