第5章 濡羽色(ぬればいろ)
「あれ…これ、おかしくない…?」
それは去年の今頃。
俺は紅白の司会に決まって、ドタバタとしてた。
そんな中、次の年の大まかなスケジュールが上がってきて、それを確認してた時だった。
アニバーサリーのツアーが始まる、大事な年だ。
忙しいはずの全体スケジュールに違和感を感じた。
「え?なにがですか?」
俺より若造のマネージャーは、不思議そうな顔をした。
「大野さん。なんでこんなスケジュールがら空きなの?」
なんにも、入ってない。
レギュラー関連の仕事以外は、ほとんどない状態だった。
「あー…いえ…」
モゴモゴと、口ごもってしまった。
「え?なんかあんの?大野さん」
「いえ、そういうわけじゃ…」
「じゃ、なんなのよ。この大事な時期に…」
次の年は結成19年目で、20周年に向けて大々的に動き出す時期だ。
ツアーだってアニバーサリーツアーと銘打って、派手にやる予定だっていうのに…
NHKホールの控室で、マネージャーは困った顔をした。
「ぼ、僕には詳しいことはわかりませんので…」
そう言って、逃げるように部屋を出ていった。
「…なんなのよ…」
一人残されて、改めてスケジュールを眺めた。
「大野さん…?どうしちゃったのよ…」
やっぱりそこは、隙間だらけだった。