第3章 アリストテレス
暫くして、チーフがタクシーで俺たちに帰るように言ったけど、夜中だしなかなかタクシー会社に電話しても配車がまわってこないようだった。
一時間も待たされるらしい。
流しのタクシーも最近じゃ捕まりにくい。
「どうする?潤」
「どうしよう…」
俺んちはここから歩けないことはない距離だ。
でも潤の家は、歩くとなると結構な時間が掛かる。
「しょうがねえな…俺んち来いよ。車で送ってやるよ」
「えっ…いいよ。悪いし。俺、その辺でタクシー捕まえるから」
「ばか、こんな夜中にすぐ捕まるわけねえだろ」
土地勘もない場所でウロウロされて、なんかあっても困る。
こういうとき、潤は性善説っつーか。
自分に危害を加えてくる人間がいないって思いこんでるところがあって。
んなわけねえのにな。
おばけより何より怖いのは、人間だっつーのに。
「どうでもいいから行くぞ」
そう言って、チーフを残して家に向かって歩き出した。
「え、翔くんっ…」
渋々と言った体で、潤は俺の後をついてくる。
いつからだろう。
こうやってふたりで歩いていても、滅多に並ぶことは少なくなった。
まあ、話すことがないっちゃないからってのもあるんだけど。