第3章 アリストテレス
いつもの如く無言で歩いていると、後ろから潤の野太い声が聞こえた。
「どあっ…」
振り返ると、潤はコケていた。
見事に地面にへばりついている。
…まあ、よくあることだ…
こんなシャッキリとした濃い見た目なのに、なんでもないところでよくけつまずいてる事がある。
「おい。大丈夫か?」
近寄って手を差し出したら、ちょっと泣きそうな顔で俺を見上げた。
「うわ…」
でた…また天使だ。
「ごめん…大丈夫…」
ここ最近、潤はアクが抜けてきたっていうか。
若い頃のギラギラしたものがやっと落ち着いてきた感じがする。
ちょっとダサいことになっても動じないし、道化的な役割も進んでこなすようになってきた。
二十代の頃だったら、絶対に考えられない松本潤だ。
それほど尖ってたし。
もっとも…
十代の頃の潤は、お笑い担当でもあったくらいだから、その要素は持ってたんだけどね。
『役者、松本潤』のイメージが固まってきたころから、そういう顔は見せなくなってたんだよな。
「いいから。手」
ぐいっと無理やり手を顔の前に差し出すと、潤はそっと俺の手を握った。
ぐいっと引っ張って起こしてやると、ちょっと照れたように横を向いてしまった。