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記憶の奥底に

第2章 転校生


俺の期待は一瞬で裏切られることとなった。

『……ごめんなさい、わからない…。』

彼女は俺を憶えていなかった。
かけらすらも。
あぁ、やっぱり女の子なんて、好きになるものじゃない。
好きになったって裏切られるだけじゃないか。
10年間恋い焦がれた気持ちが、夢にまで見た女の子への気持ちが、ガラガラと崩れ落ちる音がした。
身体が思うように動かない。
上手く声を出すことができない。
まるで、数ヶ月前の自分のようだ……
もしかしたら、病気よりもショックを受けているかもしれない自分が居た。

すると担任が間に入る。

「篠原さん、自己紹介しましょうか。」

『あ、はい、篠原 みさと です。ずっとフランスに住んでいました。』

「ありがとう。皆さん、聞いてください。篠原さんは訳あって少し記憶がありません。小さい頃にこの近くに住んでいたそうなの。だから少しでも記憶が戻るようにと、この学校へ転校してきました。仲良くしてあげてね。」

担任の台詞に俺は言葉を失った。
記憶がない…?
あぁ、なんだ、記憶がないのか。
だから俺のこともわからないんだ。
そう自分を納得させた。
でも、心の何処かで、俺のことだけは、本当は俺のことだけは憶えてくれてるんじゃないか、そんな淡い期待を抱いていた……
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