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記憶の奥底に

第1章 ~夢~


pipipipi...pipipipi

これはよく見る夢だった。
いつも目覚めるのはこのタイミングで、泣きながら追いかけようとする男の子の顔はぼやけていてわからない。
彼だけではない。
この夢では登場人物全員の顔がぼやけ、台詞もところどころが抜け落ちている。

この夢を見た日は毎回、目が覚めると枕が濡れている。

『………また同じ夢。あれは誰だったんだろう。』

コンコン

「お嬢様、お目覚めになられましたか。朝食の準備が出来ております。学校のご準備を。」

部屋に入って来たのはかっちりとしたスーツを身にまとった若い男性。
男性、基少女の執事は扉の横に立ち、お嬢様と呼んだ少女に声をかける。

『はい、すぐに。』

少女がそれだけ答えると男性はコツコツと階段を下りて行った。
少女はすぐに身支度を整える。
壁に掛けられた真新しい制服に袖を通し、鏡で確認する。

今日は転校してから初めての登校日だ。
少女は少し緊張した面持ちで、スクールバッグをぎゅっと握りしめた。

「お嬢様~?」

下から執事の呼ぶ声がする。

「はい、ただいま!」

それに少し声を張って返事をすると、少女は静かに階段を下りた。

食堂に降りると、少女は一人で朝食を摂る。
そう、この家には少女と執事の二人だけである。
シンと静まった部屋で静かに食事をする少女とそれを傍で見守る執事。
これがここ数週間の習慣となっていた。

二人で住むには広すぎる家。
閑静な住宅街にそびえ建つその家にはしばらく人が住んでいなかった。
管理だけはきちんとされていたようで綺麗に保たれていたが、やはりもの悲しさの残る家。
しかし、少女は気に入っていた。
何故だかわからないが、すごく懐かしさのある屋敷だったのだ。
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