第9章 出逢い
「ごめんね、。姫神子が見つかったから、あんたをこの豊臣領に置いておく必要が無くなった。」
「秀吉さん…?」
「まぁ、あんたなら世渡り上手そうだし俺がいなくてもやっていけるよ。元気でね。」
「待って、秀吉さん!」
背を向けた秀吉さんは道の無い暗闇へと消えて行く。嫌だ、置いて行かないで。
私は追い掛ける事も出来ずただその場で崩れ落ちる。
「ーーーい。」
「うぅ…。」
「おーい!大丈夫かい?」
「んん……?」
遠くから聞こえてくる秀吉さんとは別の声。ゆっくり瞼を持ち上げると見た事の無い人が心配そうな顔で覗き込んでいた。今のは……夢?
「凄いうなされていたけれど…熱はどう?」
「熱…?」
「君、川辺で倒れていたんだ。丸2日も眠っていたんだよ。」
「川、で……あっ!」
そうだ、思い出した。光秀さんという人に追われて私は半兵衛くんと逃げていた所、崖に飛び込み…そのままはぐれてしまったんだ。というかここ何処?この人誰…!?
直ぐに上半身を起こし辺りを見渡す。焦燥する気持ちがそのまま表情に出てしまったのか男の子は優しく笑ってくれる。
「落ち着いて、君の嫌がる事はしないよ。名前を教えて貰ってもいい?」
「…、です。」
名乗った途端、彼のふわふわな耳がピクリと揺れた。…ん?犬みたいな、耳…?
「そうか…俺は真田幸村。この真田領で総大将を務めている。よろしくね!」
「あ、はい…よろしくお願いします。」
真田幸村…すごく聞き覚えのある名前。もしかしなくても人狼だよね。あの垂れ耳男以来だ。人狼を見るのは。
差し出された手に手を重ねおずおずと握手を交わす。助けてくれたみたいだし、悪い人ではなさそうだけど…私、このままどうしよう。
「熱は下がったかな?えっと…少しだけ、ごめんね。」
「あ…。」
どこか少しだけ照れた様子で彼の大きな掌がピタリと額へあてられる。少しだけ前のめりになる幸村さんからちらりと覗く尻尾が凄い気になる。柴犬みたい。初対面の人にこんな事を思うのは失礼かもしれないけど、可愛い。
「うん、大丈夫そうだ。ご飯も食べられそうなら一緒に来て欲しいんだけど…俺の仲間も紹介したいしね!」
「えっと…いいんですか?自分で言うのもなんですけど、こんな得体の知れない人間を。」