第3章 厄魔
「利家さん!稽古つけて下さい!!」
「だーかーら、駄目だって!秀吉に釘刺されてるんだよ!」
「じゃあこっそり!」
「バレた時オレが怒られるだろ!」
朝からずっとこの問答を繰り返していた。どの道こんな大きい城の中で毎日ダラダラしてたら溶けてしまう。自分の部屋で出来ることなんて、筋トレ位だし。大学に行かなくていいのは嬉しいけど毎日行っていた鍛錬が出来なくなるというのはとんでもないストレスだ。
「…じゃあ乗馬を教えて下さい。毎回秀吉さんの後に乗せてもらうのは申し訳ないので。」
「あー…まぁそれくらいならいいと思うけどよー…先に秀吉に確認取ってこい、確認!」
「良いって言わなかったから利家さんに頼んでるの!!」
「そう言われてもなー。」
ガシガシと乱暴に後頭部を掻く利家さん。あっさり承諾してくれるかと思ったけれど全然頷いてくれない。どうやって言いくるめようか試行錯誤していると後から聞こえてくる足音に振り返った。歩いて来たのは官兵衛さんと半兵衛さんだ。
「賑やかだね〜。もう利家はちゃんと仲良くなったの?」
「官兵衛さん、半兵衛さん!…守られてばかりいるのが嫌なので、刀の稽古を付けてくださいって頼んでたんです。」
「オレ刀使わねえし、秀吉に絶対握らせるなって言われてるんだよなー。」
「…秀吉様が止めるならやらなくて正解だな。仮にも嫁になるんだろう。無闇矢鱈に危険な目に合わせられない。」
「なりませんよ!?それに戦場には連れてったじゃないですか…!十分危険でした!」
「ふふ、それは確かに。」
笑い事じゃないんだよ。こっちは本気で命の危機を覚えたから頼んでるんだよ…!!
「お、いたいた。揃って何の話?」
廊下を歩く足音がまたひとつ聞こえてきたかと思えば今度は秀吉さんが現れた。私は咄嗟に利家さんの背後に隠れる。
「あはは、そんなに警戒しなくても平気だよ。本人の同意無しに手を出したりしないしね!」
「…信じてますよ。」
同意無しに手を出すなんてもってのほかでしょ…。そんな事が有ればどんな手を使ってでもこの城を抜け出す。言葉と裏腹に利家さんの服を掴むと大きな掌が頭に乗せられぽんぽんと軽く撫でた。上を見上げると利家さんが歯を見せ笑う。