第10章 雨
幸村さん達にお世話になり始めてから数日。今日は生憎のこと雨だった。ざあざあと降りしきる雨の音は耳に心地よく、ちょっとだけ落ち着く。ここに来てからというもの、縫い物に日々追われていた。戦が多い分矢張り着物も破れたり傷んだりしやすいらしい。
今日も机の近くに腰掛けて信之さんの着物をちくちくと縫い進めていた。少しばかり退屈で欠伸を零すと不意に襖の奥から声がする。
「、入ってもいい?」
「鎌ノ助さん?大丈夫ですよ。」
そっと顔を出して来たのは鎌ノ助さんだった。猫のように気紛れな彼はどうやら私に懐いてくれたようでこうして仕事の合間に会いに来てくれる。…サボったりもしてるみたいだけど。
鎌ノ助さんは、私の部屋に入るなり布団へごろりと寝転んでしまった。
「また縫い物?」
「はい、今出来ることなんてこれくらいですから。でも、立ってもあんまり痛く無くなってきたんですよ!」
「良かったね。ちゃんと治ったら僕と散歩に行こう。」
「約束しましたもんね。」
「うん。」
彼は散歩が好きらしい。私も身体を動かす事が好きだったからその事を伝えて以来こうして約束をしていた。早く歩けるようになって、果たせるといいな。
「少しくらい休憩したら?ずっとやってる。」
「え?うーん…そうですね、折角鎌ノ助さんが会いに来てくれましたし、お話しましょうか。」
少し悩んだけれど、私は持っていた針と糸を置いた。机から離れ鎌ノ助さんの傍へ寄れば彼は上半身を起こし怪我をしていない方の脚へそっと頭を乗せてくる。
「…やっぱり、の膝気持ちいい。よく眠れそう……ふぁ。」
「仕事はいいんですか…?」
「…今日の仕事は終わった。雨で蹴鞠も出来ないし、退屈だったんだよね。」
「凄い土砂降りですもんね。明日は晴れると良いんですけど。」
「この雲の厚さだと明日も雨じゃない…?」
「ですよねぇ…。」
「僕はのんびり出来るからこういう日も嫌いじゃない。」
「私も好きですよ。涼しくなりますしね。」
「うん、過ごしやすい。」
話している間、鎌ノ助さんの尻尾は緩やかにゆらゆら揺れていた。フサフサした毛はツヤツヤに整えられてて綺麗。すると鎌ノ助さんはその視線に気付いてか気付かずか、いつも被っているフードを脱ぎ直接頭を膝へ乗せてきた。