第20章 消された思い出
「主」
『キング』
この掛け合いがとても心地よかった
私が主と呼べば王はなんだと目を瞬かせて私の名前を呼ぶ
いや、私の名前というより私の役職名を王は言っているのだが私には名前はない為、唯一の役職名が私の存在を表していた
私にとってはとても特別なこと…
王の世話役を勤める私は王の全てを知る、知る必要がある
足の大きさや身長、重さや髪の長さ…クイーンやルークは私の事を気味悪くみるが側に仕えるものとしては常識の範囲だ
「主、失礼します」
そういって私は王の背中の服のボタンを外していく
露になる白い肌に王は抵抗せず身を私に任せて目を瞑る
服を脱がせて王の背中を見てはいつも私は思う
…美しい、主が、欲しい
その白い肌に私の褐色の指を這わせたらどれ程美しいだろうか…
そう、私は王を【愛している】のだ…
いつからと言われると的確な答えはでないが、私は今…確かに王を愛している
恋ではない、間違えなく愛だ
『まだか?キング』
「申し訳ございません、ではこちらにお手を…」
音もなく服の擦る音もなければ王が怪訝になるのは当たり前だ
すかさず私は王に上着の袖を通させて下から順にボタンを留めていく
『相変わらず世話焼きだねキング、これくらい自分でできる』
「いえ、世話役の仕事です」
『ふふっ…キングが勝手に作った仕事でしょ?世話役。
無理しなくていいのに』
「貴方は闇の王であり、我らの主であるから当然ですよ」
それに無理などしてません、そう私が王の御御足に靴を履かせると王はふんわりと微笑んで再び私の名前を呼んだ
『ありがとう、キングは頼りになる』
「…私はいつでも主のお側にいます」
貴方のその満月のような美しい黄金の瞳にうつるのは私だけでいい
それで満足していた私も長く傍にいればもっと欲深くなるもので…
ああ、主…私は貴方の心も体も全て欲しいのです
色欲を滾らせた私が口角を上げた意味も知らずに王は微笑んだ