第2章 中編
「シガイの子供って出来るのかな?」
あれから更に数日が経った。
背後からユーリを抱き込むようにしてその手を下腹部に這わせると、そんなことを言ってきた。
どうやら今日はそういった気分らしい。
子供など興味の欠片もないくせに、一体どういう心境で問いかけてくるのか。
「さぁ、知りません」
ユーリは軽く彼の手を振り払うとため息を吐いた。
今日は目覚めてからまだ行為を行っていないので、久しぶりに言葉らしい言葉を発せるほどまでには回復していた。
身体の怠さは消えないままだが、そういえば五感も戻りつつある。
昨日まで香っていた甘い香りは今日は感じられない。
それが意味するのは一体なんなのか。
「冷たいなぁ。恋人同士なんだからそういった会話を楽しもうよ」
アーデンの言葉に、ユーリは呆れ顔でため息を吐く。
「婦女暴行に拉致監禁、更には薬物使用。なるほど、ニフルハイムの帝国では私の知る恋人の定義が違うのですね。流石世界の最前線を行くだけはあります。生憎私はこんな扱いをする男を恋人などと思う常識は持ち合わせていませんので、早々に解放してくれるとありがたいのですが」
枷を嵌められ逃げられないと分かっていても、身体が少し回復しただけで何時もの口調が出てしまった。
明らかな自滅行為だが、今更どうすることもできない。
ユーリを抱き込んでいたアーデンはクツクツと笑い声を漏らした。
「はぁ、受け入れてくれるって言ったのは嘘だったのか」
ワザとらしくため息を吐く彼に、こちらも負けじとため息を吐きだす。
「受け入れる定義が分かりませんが、とりあえず物理的に受け入れましたよね?そもそも私はただ、あなたが運命に抗うというならばそのお手伝いを申し上げただけで、それがどうなってこうなったのかは理解しかねます。クリスタルに復讐したい気持ちは分かりますが、一国の宰相が年端もいかない一般兵を蹂躙など人間性を疑われますよ。…あ、人間ではなくシガイ性ですか?」
「…ほんと、可愛げがないねぇ」
僅かに身を捩るユーリを離すことなく、どこか楽し気に話すアーデン。
そんな彼の行動に、ユーリのため息は止まらなかった。