第1章 前編
ーーー知ってますよ。
不意に感じた、激しい頭痛と言葉。
頭に響いて来た言葉は、彼女から発せられたものではない。
頭痛は一瞬で止んだが、アーデンは困惑したままだった。
2000年前、牢獄に捕らえられていたアーデンを救った人物がいた。
掠れていく記憶を辿ると、そういえば彼女もユーリのような太々しい態度だった気がする。
…いや、まさか、そんなのはありえない。
一瞬脳裏に過った可能性をアーデンは打ち消したが、それでも戸惑いは消えなかった。
「……っふ!?」
そして気が付けば、ユーリの顎を捕らえて口付けていた。
強張った彼女の唇に舌を差し込み、口内を舐め上げる。
驚いた彼女はアーデンを引きはがそうと手で押しやろうとするが、すぐに諦めた。
まるで中を確かめるようにゆっくりと舌で舐めとられる。
隅々まで舐められる動きは緩やかだが、不意に強く吸われる。
初めての感覚に、ユーリはゾクリとしたものを感じた。
声が漏れそうになるのを必死に耐えながら、アーデンの好きなようにさせる。
そしてどれくらい経ったのだろうか、漸く解放された。
お互いの唾液で濡れる唇をアーデンは舐めとると、その身体を離す。
「……………突っ込みどころ満載の言葉を吐いたかと思えば、何がどうなってこういう流れになるのでしょうか」
上がった息を整えると、ユーリはジト目で男を睨みつけた。
どうやら彼女が言葉を発しなかったのは、どこから突っ込むべきか迷っていたからだようだ。
「恋人同士なんだし、キスくらいいいじゃん」
「確かに私達は恋人と呼ばれるカテゴリーに入ってますが、まったく意味の分からない流れでしないでください。後、私の意思はどうなる」
「オレがしたいと思ったからしただけだよ。ユーリだって嫌じゃなかったでしょう?」
「………はぁ、本当に私の恋人はどこまでも我が道を行きますね」
「そう?ユーリも負けてないと思うけど」
そうやって売り言葉に買い言葉を幾つか交わすと、アーデンは漸く車を運転し始めた。
ユーリもユーリで漸く帰れると思ったのか、シートに深く腰を掛ける。
二人の間で再び沈黙が流れるが、それは先ほどのような不穏なものではなかった。