第12章 其の十二★燭台切光忠
遠征組が帰還して、全員が集まればあっという間に夕餉の時間となった。
今日は、とれたてのお野菜がふんだんに使われた食事で、いつもに増して美味しく感じる。
燭台切と歌仙はとても料理が上手で、桜華の大好物をたくさん作ってくれるのだ。
あれやこれやと騒がしく過ごす夜は、いつの間にか時間が過ぎていって、桜華も自室へと戻り、今日の残っていた仕事に取り掛かる。
昼間、倒れてしまったこともあり、いつも以上に残務があった。近侍の加州を呼んで手伝ってもらおうか、もしくはいつも事務仕事を手伝ってくれる長谷部を呼ぼうか、そうこう考えている内に手を動かした方が仕事は早く終わるだろう。
桜華は、皆にもゆっくり休んでもらいたいと考え、やはり自分一人で残務をこなすことにした。
しばらくして、間もなく仕事も終わりに差し掛かろうとした頃、審神者部屋の襖の向こうから遠慮がちに声がかかる。
「主?起きてる?」
この声は?
「燭台切様?」
「うん。主の部屋に灯りが見えたから、まだ起きているのかと思って、夜食を作ってきたのだけれど」
そう言えば、少し小腹も空いてきた。喉も乾いていたし、桜華は燭台切を部屋の中へと招き入れる。
「こんな夜にお邪魔しちゃって、大丈夫だったかな?」
燭台きりは持って来た小さめのおにぎりと温かいお茶をお盆ごと卓袱台に置くと桜華の仕事机の方へ体を向けた。
「もう少しでキリが付くので、燭台切様も一緒にお夜食しませんか?」
思いもよらない申し出に、燭台切は驚いた顔を見せたが、すぐに笑顔に戻る。
「じゃあ、お言葉に甘えてしまおうかな」
「あっ、でも燭台切様の分のおにぎりがないですか?」
「僕は、さっき厨でつまみ食いを……なんて、かっこつかないよね」
そんな燭台切をみて、桜華はクスッと笑ってから彼に座って待ってもらうよう促した。
筆を動かしながら桜華は燭台切と他愛のない会話を交わす。
ほんの少しの時間であったが、とても温かい気持ちになったのは言うまでもない。
仕事を終えた桜華は、燭台切の用意してくれたおにぎりの前に座ると嬉しそうに手を合わせて『いただきます』とあいさつをした。
『召し上がれ』と返事を返した燭台切は、お茶を啜りながら桜華の食べる姿を眺める。