第1章 其の一
薄暗くされた審神者部屋の寝室。
白いベッドに横たわっている部屋の主は安らかな寝息を立てている。
ただそれが眠っているだけならば何ら問題はないのであるが、襖に寄りかかり刀を抱えうつむいたまま目を瞑る加州清光は丸2日眠っていない状態だ。
部屋の隅には蹲るように眠る五虎退に膝枕をしてやっている薬研藤四郎、彼もまた座ったままであるが眠りに就いている様子だった。
月の綺麗な夜に梟がひとつ鳴く。
丸2日……このまま主の目が覚めないままにこの本丸は衰退していくのだろうかと不安を覚えたのも一瞬の出来事で、どうか主が早く目を覚ましますようにと祈るばかりだ。
スッと衣擦れのかすかな音に俯いていた加州が顔を上げた。いつでも抜刀できるように掴んだ柄に力を籠めるが、気配が敵ではないことにすぐさま気づき、刀から手を離すと勢いよく立ち上がる。それと同時に、彼の背後にある襖が開き、隣室に控えていた歌仙兼定と和泉守兼定が一歩部屋に踏み入れた。
「主?」
久々に声を出したせいかすっかり乾いた加州の声が部屋に響いた。
そして、それを合図に審神者のベッドの周りに五虎退を除いた全員が集まる。
ピクッと動いた審神者の指に視線が集まり、それを掬い上げるかのように加州が彼女の手を取った。ギュッと握られた手にうっすら反応が返る。
「主っ!主!!」
手を握ったままの加州の声が何度も彼女を呼ぶ。
ギュッと瞼に力が入った次の瞬間、丸2日眠ったままだった審神者桜華がまるで朝寝坊した女子高生の様にバッと起き上がった。
久々の起床に眩暈を感じた桜華が再びベッドに倒れそうになるのを加州が支え、そのまま抱きしめる。
「主~!!!」
うっすらと涙を浮かべた加州を見て、桜華は泣くほどの事でもないだろうと言った顔をしているが、本人は丸2日も意識を失っていたとは思っていない。
しかし、自分の周りを取り囲む男士たちを見て段々と何が起こっていたのかを思い出していた。
「加州様、私、新しいお仲間の顕現、成功したのですね?」
「したよ、したけど。主、丸2日も寝たままだったんだよ!俺、めちゃくちゃ心配したんだからね」
加州のその言葉を聞いて桜華はまさかと言った表情で周りにいた男士達の顔を見回す。どの刀剣達も真面目な顔で頷いており、加州の言葉が嘘ではないことを示していた。