第9章 祈りと願いと 後編 (光秀×舞) R18
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只ならぬ雰囲気に、信長の表情が険しくなる
「何だ。申してみよ」
「はっ、斥候より急ぎの書簡が届いております!」
「寄越せ」
信長は書簡を受け取ると、急いで目を通した
読み終えると、すぐに指示を出す
「すぐに家康を呼べ。三成もだ」
「はっ!」
家臣は一礼すると、急いで伝令に走っていった
緊迫した雰囲気に言葉を発せずにいた舞が、恐る恐る口を開く
「何かあったんですか…?まさか光秀さんに何か…」
「光秀は朝倉の領地を攻める事になっていたが、そこへ上杉も進軍してきているとの知らせを受けた」
「え?!光秀さんが戦を…?!どうして…」
「やむを得ない事情があるとわかってやれ。だが、事態は深刻だ」
「そんな…っ!」
光秀は戦の事など何も言わなかった
今日届いた文にも、そんな事は一言も書かれていない
私が不安にならないように黙っていてくれたんだと思うと胸が苦しくなり、掌をギュッと強く握りしめた
「案ずるな。援軍として家康と三成を向かわせる」
信長はきつく握りしめられた舞の掌を掴み両手で包み込むと、安心させるように力強く言い放つ
「信長様…。すみません、ちょっと混乱してしまって…」
今にも泣き出しそうな目をしているのに、一生懸命笑顔を作ろうとしている舞の姿を見て、抑えていた衝動が一気に溢れ出した信長は、舞をグッと引き寄せ腕の中に閉じ込めた
「そのような顔をするな…っ。貴様のそのような顔は見たくない」
「っ、信長様…何、を…っ」
身じろぎをして信長の胸を押し返そうとするが、一層強く抱き竦められ逃れられない
信長はそのまま舞の首筋に顔を近づけようとした
だが、その瞬間…信長はピタリと動きを止めた
白い首筋へ鮮やかに刻まれた所有の証を見やり、眉を寄せると舞の体をゆっくりと解放する
「貴様はもう部屋へ戻れ。すぐに家康が来るはずだ」
「っ、はい…。どうか光秀さんをよろしくお願いします」
「安心しろ。絶対に死なせはせん」
信長の言葉に少しホッとした表情を浮かべ、舞は天主を後にした
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