君との距離は3yard 【アイシールド21長編R18物語】
第5章 Open my heart
ヒル魔は呆気に取られていた。
ふと我に返った波音はすぐに唇を離した。
そしてポタ、ポタと大粒の雨が降り出した。
「ご、ごめんなさい…!」
自分のした事がどれだけ大変な事か分かっていた。
彼の顔なんて見れなかった。
今度こそ家から出なきゃ。
急いでここから出ようとしてドアまで駆け抜けて外へと通じるドアの取っ手へと手をかける。
「…そうやって俺からも逃げるのか。」
冷たい声に足が竦む。
「てめぇはそうやってやるだけやって逃げるのか。」
「…答えなんて分かってるし。」
あたしと貴方は釣り合わない。
それに貴方はあたしのことなんて何も思ってない。
「まだ何も言ってねぇよ。」
「何も言わなくても分かるよ。」
ドアノブを握る力が強くなる。
「だって貴方は───」
あたしの事、嫌いじゃない。
そう言い掛けた時、背中が暖かくなった。
お腹周りがぎゅっと締め付けられた。
「てめぇ最低だな。」
抱き締められていた。力強く。息が苦しくなるぐらい。
「てめぇの事なんて好きな訳ねぇだろ。泣き虫でヘタレで背も小さい癖に男みてぇな性格、嫌に決まってんだろうが。」
やっぱりそうじゃん。あたしの事嫌いじゃん。
「でも、」
彼は一呼吸置いてから話を継いだ。
「その性格の中で見せる女らしい一面とかは嫌いじゃねぇ。眼鏡も性格とのギャップがあるし、俺よりは劣るがパソコン使いもも糞マネより圧倒的に上。使える女だ。」
「つまりどういう意味だよ…。」
「ケッ、まだ言わせんのか。てめぇは。」
こっち向け、と言われて辛い表情で振り向いた波音。
彼は振り向いてすぐに彼女の唇を奪った。
「…!」
「ベタな言葉言うよりもこっちの方が性にあってりゃあ。」
波音は開いた口が塞がらない。
その顔を見て悪魔の笑みを浮かべた彼はポカンとしている彼女を抱き抱えた。
お姫様抱っこまでされて波音は崩れた顔で顔を赤くする。
「今日は泊まれ。」
「で、でも」
「そんな顔で外出たらこわ〜いお兄さんに連れて行かれっぞ。」
「…」
「返事は!」
「…はい。」
世話の焼ける女だ、と呟いてまた中へと戻っていく。
無造作に置かれた彼女の靴が嬉しそうにに身を寄せ合っていた。