君との距離は3yard 【アイシールド21長編R18物語】
第3章 恐れ
〜Narrator side〜
思い出したくない。
悲しくて、怯えた声だった。
「…お前もお前だな。」
ヒル魔はブラックを飲みながらチラッと彼女をみた。
明らかに暗い顔をしている。
シケた面しやがって。だからそんな表情大会前に見せんじゃねぇよ。
顔には出さないが彼も波音のそんな顔を見るのが嫌だったようだ。
「人間関係ぐらい、手帳があればどうにかなるだろ。」
「あたしは手帳なんてつくってねぇし。それに…。」
「それに?」
「見捨てられるのが怖かった。」
人には嫌われてもいい。何をやってもいい。ただ見捨てられるのが怖かった彼女にとって女子校の環境は最悪だった。
劣等者は次々と辞めさせられ、優秀な人でもある日突然無視されたり水をかけられたりするという恐怖もある。
いつ見捨てられるのか、次は自分になるかと思っていつも怖かった。
彼女の生活は恐れながらではないとやっていけなかったのである。
「…だから、ここに来た時ホッとした。妖ちゃん達がこうやって一生懸命にクリスマスボウルを目指して全力を注いでいる姿見て凄い…感動した。それに仲間に恵まれたあんた達が羨ましかった。中学時代はあんなに苦労してたんだもん。漸く仲間が集まって活躍してるデビルバッツ見たらあたし嬉しくて嬉しくて…。」
「だからさ、」
間髪を入れる間もなく彼女は言葉を継ぐ。
「こんなあたしをデビルバッツの一員にさせてくれませんか…?」
ぐるぐる巻きにロープを縛られて強制的にやらされてたマネージャーの仕事。強制だったから彼女の本心など聴いていなかった。
漸く、言えた、自分の気持ち。
まだ怪我の原因とかは言えないけど、それでも自分の気持ちを伝えるのが苦手な彼女にとってはデビルバッツに入る為の大きな一歩だった。
「既にお前は泥門のマネだろうが。今更部員にするしないあるか。」
彼は表情を崩さずに素っ気なく言った。素っ気なかったが彼女にとってその言葉は地獄から救われるような一言だった。
時刻は午後10時半。
一秒が長いと思っていた時間がようやく早くなり始めたのだった。