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俺と私の、【ヒロアカ】

第1章 俺の帰り道。




ほんのりと紅い頬をして、彼女はぽつりと言う。


「私、叱られたこと、なかったの。…なかなか、嬉しいものだわ。」


その声に、瀬呂はまたも胸を高鳴らせる。

そして、自身のちょろさに頭を抑えた。



「今日は本当にいろいろありがとう。私はもう行きます。」


すっと立ち上がると、彼女はそう言って歩きだそうとする。


なんという潔さ!
後腐れなさ!

瀬呂は脳内で散々文句を言っておきながら、それでも少しの名残惜しさを感じていた。


そんなとき、

彼女はくるりと振り返り、薄い唇をふっと広げた。


「私の名前、伝えていなかったわね。ごめんなさい。」

「あっ、いや、」


瀬呂は、見返り美人とはこのことか、と圧倒される。


「望月律よ。」

「律……」


有無を言わさず、彼女は名前をいう。

瀬呂は一瞬ポカンとして、それから自分の名前も言っていないことに気がつく。


「あっ、わりぃ俺は」


「瀬呂範太、でしょう?知ってるわ。貴方、有名人ですもの。」


イタズラっ子のような顔でそう告げる彼女に、ちょろいちょろい瀬呂くんの心臓はまた高鳴る。


「体育祭、見てたもの。」


そして、ずーんと落ち込む。

あの、ドンマイって言われたやつ。
ドンマイドンマイって、皆に言われたやつか。


「あ、アレは…忘れてくれ…。」

「なんで?嫌よ。」

「嫌って…」


毅然と返す彼女を、瀬呂は縋るように見る。
また言われるのか、ドンマイと。

どこかそんな諦めを感じていた。



でも、彼女は違った。



「だってあなた、カッコよかったから。」



「え」


真剣に、真面目に。
真っ直ぐに、彼女は言う。


「だって貴方、凄くかっこよかったから。だから名前も覚えてるのよ。」

「え、えぇ…えっちょっ、ちょ」

「じゃあ、もう行くわ。今日はありがとう。瀬呂範太くん。」


そういうと彼女はくるんと後ろを向いて去っていく。

なんてかっこいい帰り方なんだ。
俺、負けてるじゃないか。


瀬呂はそう思って、不甲斐なくも彼女のかっこ悪いところを探しはじめる。

そして見つけた。


「おい!カバン忘れてる!!」


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