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短編集【ONE PIECE】

第1章 春島にて


薄暗い部屋の真ん中で、女が立っていた。
ふわりとした純白のワンピースを纏い、手にした短剣には男が刺さっている。
月明かりが、ゆっくりとこちらに向けた顔を照らす。

標的の舞台女優、xxxxだった。

彫刻のような端正な顔立ち。
真っ赤な返り血を浴びた白く細い四肢、亜麻色の髪。
月光で微かに揺らぐアイスブルーの瞳は、信じることを知らない。

美しいと思った。
ここに在る全ての要素がこの女の味方をする。
例えるなら、ぞっとするような、危うい美しさ。
舞台に立っていた時の、様々な表情を見せた愛らしい彼女とは対極にある美しさだった。

一突きにされたであろう仲間の男は、絨毯を色濃く染め上げながらごろりと床に横たえる。
よく見ると部屋は荒れ、足元には先客だろうか、ゴロツキのように見える男たちが転がっている。

「お前も私を攫いに来たのか」

驚くほど冷静で、心地良いとすら感じる声色で、xxxxは俺に問いかけた。
背中を冷や汗が伝い、鼓動が喧しく波打つ。

問いに答えるより先に動いていた。
異様な光景に頭が追い付かない中、仲間がやられた以上ここで引くわけにいかない。
手持ちの妖刀に手をかけ、抜刀せずに振り下ろす。
峰打ちで気絶させられれば、と無意識に判断していた。
床に転がる男たちは、所詮腕が立つとは言い難いチンピラ。
しかも、女だと油断して護身術の餌食になったという可能性を考えていた。

しかし、女は太刀筋を短剣で受け流し、バランスを崩した俺は首を掴まれ、力いっぱい倒される。
ずしん、という鈍い音が身体に響くと、かなり強度のある大理石の床が凹むのがわかった。
俺は抵抗することもできないうちに、突然力が抜けた。

「能力者だったか」

俺をぎりぎりと掴む彼女の指には、海楼石でできた指輪がはめられている。

彼女はただの舞台女優ではない。
俺が床に横たえているのは、海楼石のせいでも能力のせいでもない。
彼女が“何者”なのか、見誤ったからだ。
おおよそ、CPのような特別な任務にあたっている組織の人間ではないかと思った。


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