第3章 漆黒色の砂は、毒と嘯く※
言い渡された仕事は、マリンフォードから少し離れた島の暴動鎮圧だった。
能力者同士の衝突が何日も続いているらしい。
今回の戦力はほぼ私だけで、海軍の小型船の乗組員は私を送り届けることが仕事の航海士や給仕係だけだ。
人手が足りない状態は依然として続いているため、戦闘は私一人で十分と判断され、海軍の戦力は他に充てているのだろう。
数日かけて辿りついた島はかなり大きく、港はそれなりに賑わっていた。
目的地は次の島だが、ここで数日ログを溜めなければならないようで、しばらく滞在することになった。
広場で食事をしていると、賑やかな港町の向こうに大きなビル群が建ち並んでいるのが見えた。
街の人間の話によると、そこはかつて上流階級の経営者や商人が集ったオフィス街らしいが、今や廃墟となり、近付く者はいないらしい。
マリンフォードからの航海で数日過ごしただけでも随分と退屈した。
更に数日滞在と聞いたときは、正直項垂れた。
暇を持て余すくらいならと、私はビル群を目指し歩き出していた。
*
高い建物が連なる街の入口へたどり着いたのは、夕刻になってからだった。
道中は、むき出しの岩肌や手の入っていな森林といった獣道となっており、そもそも街の住人は近づけないだろうことが想像できた。
街は断崖と山に囲まれていて、先の港町以外からの侵入はそもそも難しそうだ。
つまり、お尋ね者にとっては居心地の良い住処となるかもしれない、という予感が胸をよぎっていた時だった。
突然、風が巻き起こり私の周囲を覆い尽くした。
思わず目を閉じ顔を伏せる。
自然に起きた風とは思えなかったので、戦闘態勢をとったためだ。
口にはじゃりっとした嫌な感触が広がった。
目を細めて僅かな視界を確保する。
これは、砂嵐だ。
予感の正体にピンときた私は少し口角を上げると、覇気を纏った右手で砂嵐の中を掴む。
同時に、私の左腕が勢いよく押さえつけらる感覚がした。
左腕がひんやりとした金属の温度を感じている。
次第に視界が晴れていき、砂の中から人影が現れた。
私は、大男と腕を押さえ合うようにして向き合っていた。