第21章 もしも願いが叶うなら…【轟焦凍/切甘裏夢】
30分でイルカショーは終わった。その頃には屋台で買ったファーストフードもペロリと平らげていて俺は楓と席を立ってゴミ箱にファーストフードのゴミを捨てる。
『楽しかったね〜焦凍!』
「あぁ、そうだな」
『あ、アザラシとペンギンコーナーまだ見てないからそっち行こう!』
俺の手を引いて早く早くと言ってはしゃぐ。
もしも…
もしも願いが叶うなら…
この時間が永遠に続いて欲しい…。
ずっと楓の笑顔を見てずっと隣にいて
ずっと……
楓に生きていて欲しい。
そう思うとまた自然と涙が出てきた。
『焦凍?』
心配させまいと涙を拭って何でもないと答える。
今日は泣かないようにしたかったけど、どうしても楓のことを思うと涙が出てくる。
涙を堪えながらも、水族館デートを乗り切って夕食を食べにいく
「楓、何が食べたい?」
俺がそう聞くと
『蕎麦が食べたい!焦凍が数年前のヒーローズ四月号のインタビューで紹介してたお蕎麦屋さん!ずっと気になってたの』
そう答えたが、そのインタビューに答えたのはまだ雄英卒業して事務所入ったばかりの話。
そんな昔のことをずっと覚えててくれてる彼女は本当にファンとしても俺のことを好きでいてくれたんだと思って胸が締め付けられるような思いでいっぱいになる。
「分かった、ここからそう遠くねぇ…歩いて行くか」
そういうと楓は俺の左手を繋いで隣を歩く。
『焦凍、手あったかいね…』
「そりゃ左だからだろ」
『ははっ…そうかもね〜』
他愛ない会話をしながら歩くこの時間すら今は愛おしい。
このまま飯食って近場で少し遊んで電車で病院まで送った次の日にはもうこの手は冷たくなって…
楓の声ももう聞けなくなる…
人が人を忘れる時一番最初に忘れるのは声だと言う話を聞いたことがある…
俺は、いつか楓のこの声を忘れて楓以外の他の女を愛して楓を好きな気持ちを忘れて生きて行くのか…?
『…焦凍、焦凍ってば!』
楓の呼びかけにハッと意識が戻る。
『どうしたの?今日ちょっとおかしいよ?』
「何でもねぇ…あ、蕎麦屋この角曲がって二件目の店だ』
そう言って目の前の角を曲がって蕎麦屋に入る。