第5章 子守唄
《翔サイド》
お風呂から上がり、リビングに向かうと
智の歌声が聴こえてきた。
店で弾いた『星に願いを』だ。
静かに近付き聴いていたら、勝手に涙が溢れてきた…
はじめて知った歌詞と智の優しい歌声が、俺の中の何かを熱くする。
歌い終わった智が、俺に気が付き苦笑した。
俺をソファまで連れて行くと、また『ひとりで静かに泣くな』って言われてしまった。
別にひとりで静かに泣こうと思ってる訳じゃない…
智といると、自然とそうなっているんだ。
「もっと聴かせて…智の歌…」
そう言うと、智は俺の涙を指で拭いながら優しく微笑んでくれた。
「この歌はな、俺が子供の頃に母ちゃんが歌ってくれてた子守唄なんだ…」
「そうだったんだ…」
「翔が聴きたいって言うなら歌ってやるよ
俺の歌でいいならいくらでも」
「歌って智…俺の願いも叶うように…」
「翔の願い?」
「うん…」
「願い事…あるのか?」
「うん…出来た…」
ここで暮らすようになって、淡い期待を持った…
それがいつの頃からか確信に変わってた。
智との充実した生活の中でなら、俺は幸せを見つけられるって…
そしてそれは現実になった。
俺ね、『好きなもの』が出来たんだ…
今まで『好き』なんて感じる余裕がなかった俺が、2つも見つけることが出来た。
ひとつは智の手…
料理をする時、カクテルを作る時、そして何よりも俺の頭を撫でる時の智の手が好き。
そしてもうひとつは、今見つけた…
智の優しい歌声。
このふたつの好きなものから離れたくない。
だから俺の願いは…
『ずっと智の傍にいたい』