第5章 子守唄
「あのな、翔…」
「ん?」
「この店で働いていれば、お前はこれからもっと人様に声を掛けられるようになる。
それにイチイチ付き合ってたら、キリがないぞ?」
「そうなの?」
「そうだよ。
俺だってお客様から食事に誘われたり
『仕事終わるまで待つからこのあとどこか行きませんか?』なんて言ってくる人もいるけど
一度も応えたことないぞ?」
「そうなんだ…智、行ったことないんだ…」
「おう。下手に行って、もし他のお客様にその事知られてみ?
今度は全員に応えなきゃならなくなるだろ?
だったら全部断った方が楽だよ」
「そっか…だったら俺も断ってもいいのかな…」
「大丈夫だよ。相葉さんなら、そんな理由でここに来なくなるとかもないだろうし」
「だよね」
翔の声がいくらか明るくなった。
「翔が自分から相葉さんと食事に行きたいと思うようになったら、その時は翔から誘えばいい」
「うん、そうする」
翔が俺の方を見て、安心したように微笑んだ。
「これからもさ、どんな些細なことでもいい…
翔が俺に話したい事とか、相談したい事があったら遠慮なく話せよ。
俺は翔が話すことなら、どんなことでもちゃんと聞くから」
翔の頭に手を乗せ言い聞かせるように話した。
「いいの?迷惑じゃない?」
「全然…」
「ありがとう、智」
くしゃっと頭を撫でると、嬉しそうに笑う翔…やっぱり可愛いよな。
翔が俺のところに来てから、少しずつ色々な表情を見せるようになった。
俺の元から巣立つ日まで、他にどんな表情を見せてくれるようになるんだろう…楽しみだ。