第3章 春の歌
「久しぶりに熟睡した気がします」
翔は体を起こし両手を組むと、上に伸びをした。
「それは良かった…
寝場所が変わると、なかなか眠れなかったりするからな」
「そうですね…自分でも少し驚いてます。
あのアパートだと物音が響くからゆっくり寝てるなんて出来なかったし
自宅でもこんなに落ち着いて寝ることなんて出来なかったんじゃないかな…」
少しずつだけど、翔の家庭環境が見えてきた。
やはり翔にとって家は安らぎを与えてくれる場所じゃなかったんだ。
昨日も潤さんに言ってた。『あの家から抜け出すことが出来た』って…
二十歳なんだから家を出ようと思えば出られる…
でもそれが許されない環境…出来ない状況。
それでもそこから抜け出さなければ、生きていけないくらい追い詰められた…
潤さんに愛を感じていないのに
抱かれることを、自分自身に許したんだ。
それだって本来は望んだ形ではなくて…
世間を知らずに育ったから、ひとりで生きていく術も知らなかった。
こいつが元の生活に戻る気が無いなら
一から教えてやらないとな、人間社会ってモノを。
「オッシ!ほらっ、朝メシ作るぞ。手伝え、翔」
俺はベッドから降りると、座っている翔の頭をクシャッと撫でた。
「はいっ」
元気に返事をして、布団を畳もうとする。
「翔、布団は起きてすぐ畳むもんじゃないぞ?」
「え?そうなんですか?」
「ん、寝てた時に汗かいて水分含んでるから
被り布団を捲っておいて、汗を蒸発させてから畳め」
「わかりました」
「よし、行くぞ」
「はい」