第3章 春の歌
《翔サイド》
寝ていると背中に温もりを感じた。
心地いい温もり…その温もりをもっと感じたくて、寝返りをうった。
何かはわからない、その温かさの発生源に頬をあて、再び眠りの底に落ちていく。
朝、目が覚めると、心地よい温もりがまだ感じられて
その存在を確かめるべく、ゆっくりと瞼を開いた。
起きたばかりの焦点の合わない視界に、何かが映る。
「おはよ」
えっ…?
目を凝らし焦点を合わせると、微笑んでる智がいた。
「おっ、おはようございますっ」
何で智⁈
吃驚して飛び起きた。
あ、そうか…昨日泊めたんだっけ。
誰かと一緒の布団に寝て、朝を迎えるのは初めてだ。
その事を智に話すと、少し寂しそうな顔をされた。
そんなこと、どうってことないのに…
「なぁ、朝メシどうすんの?」
「いつもコンビニで、パンを買って食べてます」
「いつも?家で飯作らないの?」
「はい…料理したことないんで」
「昼は?」
「コンビニの弁当か、ファストフードで済ませてます」
智は目を見開いたあと『はぁ~』っと大きく溜め息を吐いた。
なに?なにか問題あり?
「ここ鍋ある?」
「一応、ひとつだけありますけど」
料理はしないけど、コーヒーを淹れるときに必要だから小さめの鍋は購入した。
「んじゃ、買い物行くぞ」
「え?どこに?」
「コンビニでいいよ。朝メシ食おう」
「はい…」
智とコンビニへ行くと、パンコーナーを見ようとする俺の腕を智が掴んだ。
「日本人の朝メシは、昔から米って決まってんの」
「え?」
「今日の朝食のメニューは俺が決める。いいな?」
「別にいいですけど…」
「ヨシッ!じゃあすぐ終わらせるから、ちょっと待ってろ」
智は急ぎ足で店内を周り、買い物かごに次々と商品を入れていった。